｜あっという間に。この言葉には二通りの解釈があります。

長時間を短時間に感じる事。＜あっという間に一年が終わった＞などの時間経過の使い方。もうひとつが文字通り超短時間という意味。＜あっという間に当て逃げのクルマが去っていった＞というような瞬間を表すこと。時間経過は主観的だが、短時間は誰にもわかりやすい。

このわかりやすい表現というものが広告ではコピーに使われる。今回の商品が瞬間を表現したいため、コピーライターが＜あっという間に＞を使ったが、これが難題の始まりだった。

世の中にある瞬間の出来事を集めてみる。ネガティブは広告では使えない。集めるのはポジティブやユニーク（くすっとできること）なもの。

脳神経学的に言うと、時間を短く感じるものは＜ドーパミン＞が出ている時間を人は短いと感じ、出ていない時は長いと感じるという。脳細胞が互いに活性化しニューロンがネットワークをつくる時間が短いほど、時間の短さを与え、ドーパミンがその時間を楽しく（終わってほしくない）と感じさせる。

人は学習により慣れていく。初めての体験ほど人は時間を長く感じ、経験値が多くなった大人になると時間は短く感じるもの。人生はあっという間だったと言う老人の話は、ニューロンネットワークひとつひとつの出来事を正しい記憶でなく、省略した情報で繋げてしまうから。5才の記憶と10才の記憶はすぐ隣に、15才の記憶や20才の記憶もパタパタと倒れるドミノのように繋げてしまうからのようだ。

話を元に戻すと、ポジティブの＜あっという間に＞はほぼ面白くないことがわかった。それは成功した瞬間とか一度見たら飽きてしまうネタばかり。やっぱり失敗の瞬間が笑えたりするわけで、ポジティブな＜あっという間に＞は共感が得られにくい。

そうなるとユニークな＜あっという間に＞しかチャンスはない。それをまた何個も積み上げてクライマックスに持ち込む事。ドーパミンがどんどん出る＜あっという間に＞とは何か？結局のところ、言葉で説明が要らない＜あっという間に＞はただの瞬間芸では解決しなかった。ポジティブネタ同様、一度見たらネタがバレてしまう。

集められたネタはその数100以上、今でいうTIK/TOK的なネタの数々。集めれば集めるほど古典的なネタとなり、それはやがてあるところで止まった。あるところ、それは＜無声映画＞、チャップリンやキートンの世界。誰が何回見ても笑える世界。

ここで止まり、ここが終着点だった。シンプルなネタを積み重ねると確かに笑えるが、その芸は＜あっという間に＞ではない。完全に煮詰まった。ある日クリエイティブディレクターが気づいた。

「あっという間」にじゃなく、「あっ」という間にだ！

感嘆詞の＜あっ＞という不測の出来事が主人公で、その出来事がユニークなもの。それが＜あっという間に＞になる。

こうして第三の＜あっという間に＞が生まれた。

そして＜あっ＞には必ず必要なものがある。それは＜あっ＞に連動する音。ガシャーン・ビローン・ドカーン。＜あっ＞を誇張する音。こうして四コマ漫画の世界が生まれた。ド派手な色使いで事前の異様な雰囲気を出し、＜あっ＞の瞬間の派手な音、事後の超笑える世界。実際のCMが著作権上見せられないのが残念ですが、想定外の＜あっ＞という間のCMはこうして完成度の高いコメディになった。

どれくらいの時間でここまで到達するか、＜あっという間の一週間＞。完成までたった二週間で追い込んでいきます。英語で言えば＜WAO!＞の瞬間。女優さんが開いた口を手で押さえ、そのあとにニッコリと目を細めてくれる＜あっという間に＞は完成しました。