アンビリバボー(アメイジングとナイトメア)
|信じられない出来事には2種類ある。
いい事(アメイジング)と悪夢(ナイトメア)。
2つが同時に起こること? 万が一にもないことだろう。その1万分の1の体験をお話します。
先輩Mプロデューサーが起こした事件(詳細は業務機密により省略)により代打プロデューサーとなった私は、企画を見て驚いた。
「……無理だ!」
CMは予算と期間により成立する。その2つとも通常の3倍かかる最難関企画。
ロケがメインだった私は、企画を見てすぐに予算と期間が想定できるが、ストーリーがいまじゃなく過去。昭和40年代あたりの世界。そして出演者が曲者揃い。
さらに2か月はかかるだろうロケハンとロケが3週間で納品オンエア。最悪なのは以前登場した<日本一手強いCM演出M田さん>、そしてこの案件は絶対に降りられない(事件での会社責任を背負うため)こと。
簡単に言えば映画を撮れ。そしてその映画は最高品質でなければならない。最短スケジュールで最低価格で。前回M田さんを書いたように100個のロケハン、100人の出演者、100案のスケジュール提案すべてNO! を突き付けるM田さん。
ロケハンとは事前にロケ地の写真を撮り期間限定レンタルすること。出演者(俳優女優)交渉はオーディションではなく、経歴のある俳優さんに出演交渉をする事。スケジュール調整は撮影から仕上がりまでの工程をスタッフの拘束時間も決めて予算内に調整する事。
腕利きの制作を二人呼んだ。ロケ地のスペシャリストZ君と映画マニアのS君。Z君はフリーで日本中のプロダクションから呼ばれるロケ地探しのプロ、S君は年間100本以上映画館に通い劇団の演劇にも詳しい部下。
本来なら無敵のコンビだ。
一日の行動はこうだ。朝5時ミーティング。今日の作戦通りロケハンと出演者交渉をして丸一日を費やして探しまくり、写真を撮り提出用資料をつくり予算を立てて、午後9時頃M田さんにプレゼンする。
OKならそのままロケスケジュールにして広告会社の了解を得てPPM(プリプロダクション:撮影予定表)資料にして広告主のOKをもらいスタートする。
M田さんは「NO!」しか言わない。
何が良くて何が悪いかも言わない。
「NO! と言ったらNO! ダメだ」
昭和のフレーム(画面)はそうそうない。歌舞伎町の線路際や横須賀の横丁や千葉の漁港など。映画やTVドラマで使いそうなロケ地は全部NO! Z君はうなだれた。「もうないです…」
S君も泣きそうだ。俳優女優は通常年間契約(年契)を要求される。それを単発(このCMだけ)契約で三泊四日の強行軍で3週間後にオンエア。そんな都合のいい出演者はいない。夜10時にプレゼンに失敗した私たちは明日の作戦を立てるために会議室に戻る。
ネットのない時代、過去の資料とさまざまな紙資料(本)やビデオが頼り。これを見まくって深夜3時作戦をホワイトボードに書き込む。つじつまを合わせる時間を2時間。朝5時完成。今日が始まる。
ユンケルには500円から3,000円までの数種ある。その3,000円をグイッと飲み会社を後にする。
朝昼晩1日3本3,000円ユンケルを飲む。
二人が外で情報を仕入れている間、私は広告会社との折衝。コストと品質そして時間。要求されることはあってもこちらから要求はできない。
なんとか予算を交渉(ほぼお願い)するが、前任者の責任を問われ打たれっぱなし。ついでにクライアントはいろいろ注文を付けくわえてくる。スポットCMではなく番組CM(この番組は3週にひとつ変わっていくシリーズ)だから差し替えはできない。さらに次の企画も始まっていて、次の企画の案の演出との打ち合わせも始まっている。
沈む泥船のようにドンドン積み荷が嵩んでいく中、エンジンを止めてはならない。
たとえ1MMでも「走らなきゃ…」
午後9時演出プレゼン、「NO!」を告げられる。二日徹夜はなんともないが、三日徹夜、四日徹夜となるともう意識が飛んでくる。四日目の夜、「NO!」を言われた3人は会議室にいた。
「降りましょう…」
Z君はギブアップを告げた。
なんとかなだめて翌日のスタートは6時にした。五日目の夜。「NO!」を言われ、いままで無理と言ったことのないS君が、
「もうないです。降りましょう…」
とギブアップ宣言した。
「ダメだ! 降りない」
私は会社に泊まる人ではないので、毎日着替えには家に戻った。妻は日に日に弱っていく私を気遣ったが、朝食を食べ家を出た。ただ今日はリビングの写真を撮った。
「何してんの?」
「ああ、たぶんこれかな…と思う」と。
撮ったのはリアリティ。
六日目は他社の制作会社の会議室にいた。理由は演出M田さんの共有。もう時間がない。複数社の制作会社を股に掛けるM田さんを共有しなければ終わらない。
複数の仕事を協力(拘束時間の貸し借り)しあってお互いに完成させる事。ライバルに協力(無償)させることは通常あり得ないが、いまはそれを頼むしかない。
六日目夜のプレゼンは私の家の写真だけを持っていった。窓から見える景色は昭和っぽい世界。線路に電車が見えるレトロ。
「ああ、まあこんな感じだ!」初めてM田さんが口を開いた。
「どこだい? ここは」
「ああ、俺んちです」
「ん~、惜しいな」
「わかってますよ。この先にあるものですね…」
「明日、香港に行こうと思うんですよ」
「香港?」M田さんが反応した。
「ああ、香港。この景色は九龍(クーロン)しかないですよ」
日本全国ロケしたらできる内容だが、それでは予算も時間も間に合わない。クーロンなら一発で可能。それを確信していた(とっておきの隠し玉)。
数時間後の七日目朝私たちは成田にいた。一泊二日強行ロケハン。OKなら数日後にここでロケをする。
※香港・九龍城はすでに破壊されていたが、その近隣スラム(ひどい暗黒街)で可能と判断した。
キャスティングは<火曜サスペンス(通称火サス)>俳優を根こそぎ当たった。
M田さんは、「まあ、いいんじゃね」とこちらもOK(まだキープ状態)が出た。ロケハン・タレントリストを持ち、翌日広告会社プレゼン。了解を得てその三日後また香港(キャストも含め全員エコノミークラス)。のべ10日間ほど私たちは寝なかった。
自分でわかるように息は臭く、身体からはケモノ臭がする。
3,000円ユンケルは体温が上がった私たちのガソリンのようで、ドクンドクンと自分の心臓の音がいつも聞こえていた。眼だけがギラギラとしてまるで薬物中毒患者のよう。研ぎ澄まされたプロの感だけでロケは着々と進み、映画風CMは完成した。
残念なことにZ君は壊れた。ヘラヘラと口が緩み、声をかけても「ハハハっ…」と笑っている。すべての提案を否定され、Z君はプライドもプロフェッショナルの自信もすべて失い、心が完全に折れた。自宅に籠って二度と会うことはなかった。
私が知っているロケ始まって以来の最悪の予定は終わった。完成の日の朝、私は辞表を社長の机に置いた。ダビング(録音を完成させる部屋)ルームに社長から電話があった。
「おい、いまどこにいる?」
「ダビングですよ! 今日完パケ(完成パッケージ)ですから」
「会社に戻れるか?」
「無理ですよ。結構時間かかりますから…」
「じゃあ、俺がそこに行く。何時ならいい?」
数時間後社長が編集室にやってきた。
「申し訳なかった」社長は頭を下げた。
「いや、もういいです。終わったことですから…」
私はそれを拒否した。
「何がいいんだ! 謝っているじゃないか」
「社長、これじゃあ死にます。現にZ君は壊れました」
「済まない。お前に全部やらしたことは申し訳ないと思っている。だから辞めるな」
<降りられない>というプレッシャーは私たちをいつも包み込んでいた。
Z君もS君も全力の3倍は戦った。もう3,000円ユンケルを飲む必要はない。私はその後二日間ほど眠り続けた。
半年後、突然朗報があった。アジアのCMナンバーワンになった。という報告だった。
「アジア・ナンバーワン?」
台湾の新聞社主催広告祭のグランプリ。広告会社からFAXが来た。毎年秋になるといろんな広告祭がある。朗報はその最後を飾る翌年初頭の話だった。
「前年の日本の広告祭にも出品していたのに…」
日本では評価されなったCM(国内にも出品した)が海外で評価される。
青天の霹靂ってやつだ。
次々と朗報は届き、なんと全米(クレスタ賞)グランプリの朗報が届いた。
非英語圏のCM(字幕CM)が全米グランプリはめったにないこと(アメイジング)だった。
もちろんそれには喜んでいたが、国内評価がされていないことにがっかりもしていた。タレント・音楽タイアップ・シリーズ広告。まるでミュージックビデオのように流行がメディアを騒がせる日本のCM。
「評価ってなんだ?」と疑うのも無理もない話だ。
さらに半年後、とうとう一年経って<広告D通賞>を獲った。世界が認めたものを日本最高権威が認めない事はあり得ない。広告会社は沸き上がった。
ここ数年自社(D通)ではなくH堂に負けていたCM最高賞を再び取り戻したことにお礼を言われたが、元々ピンチヒッターの私がフロック(まぐれ)で獲れたのは、最高難度の企画と最高難度の演出M田さんのおかげ。ただそれはまさに命懸けだった。
代打プロデューサーが起こしたアンビリバボー。
残念ながらカンヌではゴールドではなかった。どれだけハードルが高い広告祭カンヌライオンズ。上には上がある。アンビリバボーでもまだ努力は足らない。
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