CMプロデューサーの憂鬱その③
地下鉄駅構内ロケ。それは国内では不可能だった。
交通機関は営利目的とか関係なく撮影は危険行為。特別な場合を除いて禁止されている。第三セクターの地方で赤字路線ならあるだろうが、もちろん地上を走る電車のみ。
地下鉄は特に逃げ場がないため撮影はできない。ゲリラ撮影できるはずもなく、演技のためのドアの開閉や乗客の量を制御すること、さらには中にライトを仕込む必要があるわけで条件はかなり厳しい。
撮影可能な鉄道はあるが高額、そして制限(撮影条件)が厳しかった
だからTV局にある電車のセットを借りて撮影するのが順当だった。
ただこれは1日80万円。
飛行機セット同様に決められたシーン以外は偽物がバレバレなもの。電車セットを借りるCMスタッフは皆無だった。
「早くロケ地を探してくれ!」CDから連絡が入る。
「う~ん、ちょっと待ってください」返答に困った。ないものはない。
「まさかできないってことはないよな!」
「そうは言ってないですよ。いま探していますから…」
普段は制作にロケハンなどを任せていたが、さすがに今回は無理そうだ。朝からあちこちに出かけてみるが、当てのないロケハンほど無駄なものはない。電車路線図をどこまで広げても答えは見つからなかった。
ネットがない時代、狙いは第三セクター。
東へ西へ乗りまくって探した。地下じゃなくても閉鎖的環境(引き込み線の倉庫とか)ならなんとか画は作れる。ある日のロケハンの帰り道、居眠りをしていた。ふっと目が覚めると何やら暗いトンネルの中。
「あ~、これだあ!」
トンネル内の駅でいったん降りて、元来た方向に乗り換えて第三セクター本社広報のあるビルに舞い戻った。「ああ、さっきはどうも。どうしました?」広報マンが驚いて聞いてきた。
それは川底にある地下駅だった。
「この川底の駅、借りられませんか?」
「いいですけど、ここがいいんですか?」
「ええ、この駅じゃなければだめなんです!」
これが地下鉄じゃないなんてありえない画
そこは、行きの電車では使わなかった路線で最近できたばかりの新駅。各駅停車しか止まらない川底駅だった。毎日乗車する人数も少なく撮影には大歓迎、しかも利用する車両も新しいものでなければ利用時間30分可というおまけつき。
出来立ての駅構内に広告がない。素晴らしい景色。
交通機関のロケはわかりやすい。乗った分の乗車券購入。だから80人が乗れば×乗車区間の料金。
ポスターを100枚ほど用意して駅貼りを貼りまくって撮影した。電車内の中づりもドアのシールも全部広告用をつくり、さながら電車と駅ジャック。
出来立ての川底駅はピカピカしていて広告がまだない。
そこをポスターで埋め尽くした。エキストラを電車に80人、駅に50人。こうして見事に地下鉄ロケが出来上がった。スクランブル交差点よりも緊迫感ある映像だった。
街中や交通機関、普段見慣れた風景ほどロケは難しい。
逆に廃墟やビルの屋上、ロケがやりやすそうな場所には思わぬ落とし穴があります。電気や水道、トイレや食事。不便なことが災いします。そしてロケハンではあったのに、撮影したい日には建物自体が解体されていたなんてことが起こる。
あるアイドルのPV、宣伝担当は初めての仕事らしく、
「かっこいい映像をお願いします」
と依頼してきた。選んだのは廃墟の大工場。5人のアイドルがそこで歌い・踊り・演技をするPV。
夏真っ盛りの工場はなんと50度超え。空調のない廃墟は明り取りから入る太陽光がギラギラと、まるで砂漠の上にいるように熱地獄。
踊ると舞い上がる粉塵も映像ではかっこいいが、マスクなしでいることはスタッフでも厳しい。彼らの踊った空気が熱風となってこちらに届きます。でもアイドルにマスクを掛けさせることができないのでスタッフも耐えた。さらに日が沈むとコンビナートの上でのロケ。そこは宇宙空間のような世界、命綱なし。
30人のスタッフで飲んだペットボトル300本(1本2ℓです)、ひとり20ℓを飲み干したしたロケは全員でぐったり。帰りのロケバスの中、「みんな、ありがとう! いい画が撮れたよ」と【キリンの一番搾り】を差し出すと「うぉー!」と叫ぶアイドル達。あのビールの味は忘れませんね、最高でした。
おかげさまで紅白初出場にもなり、その衣装も担当しました。
「ええっ? 紅白衣装ですか!」
アイドルの事務所(最近世の中を賑わしている会社です)にCMの常識(CMプロデューサーですよ)は通用しません。年末にオンエアチェックで紅白を見るなんて小学生以来でした。
ロケで最も不可能な場所、それは空港。
テロの危険性もある空港ではまず撮影は許可されない。あるCDがどうしても空港ロケにしたいという案件があり、相談を受けた。空港は見ただけでわかるインアウトの玄関。コンセプトはそこだった。
空港にはランクがある。
国際空港などの一種空港、地方の拠点の二種空港。そしてローカルの三種空港
(2008年定義変更で国管理空港とか会社管理とか地方官吏とか名称は変わった)。
狙いは三種のローカル空港。
1日2便(機体1機の往復のみ)とかのいったん飛行機が飛んでしまえば閉鎖時間が長いところ。ただし離島は難しい。ロケ隊が行く飛行機もないからだ。空港ロケはライトが必要、ライト持ち込みは離島ではできない。北海道・本州・四国・九州にいずれかでなければならない。
「領収書のない金」を積むしかない。
いわゆる口利き料(決して悪い意味じゃなく、こうした金は紹介料として存在します)だ。10年以内に出来た新空港ビルとそれに関連する口利きの先生(地方政治家)を探した。狙いは深夜、誰もいない空港にロケセットを建て込んで、翌朝の1便出発前に片づける約束。誰も知らないうちに何事もなかったかのように終了すること。
全国のロケコーディネーター(数人)を動かした。応じてくれたのは1件のみ(所在は言えませんが)。ロケハンに行くとなかなかいい空港(どこの国かもよくわからない)に見えた。
「よし、ここで行こう!」
季節は真冬、そこは吹雪くと零下30度にもなるローカルな街だった。撮影当日、演出の仕事が押していた。午後6時の乗り継ぎ可能な最終便に間に合うかどうか。演出と私だけが残り、スタッフは前日準備に先発した。エキストラを仕込んだ雑踏シーンは相当数の練習を重ねないと一発撮影はうまくいかない。
まして深夜集合のロケは事故が起こりやすい。前乗り班にすべてを託した。
出発当日午後6時、やはり間に合わない。午後8時やっと演出の仕事が終了。
到着の空港からターミナル駅までタクシーを飛ばし、深夜特急(360KM以上)に乗れば午前5時に着く。撮影60分で可能な予定(香盤表)はあらかじめ組んであった。
前日到着スタッフは深夜11時。空港が閉鎖された時間から内装にカムフラージュの布やベニヤの看板を立てていく。照明班がありったけのライトを持ち込んでゼネレーターから電力を供給、出演者は午前4時スタンバイ。空港スタッフのエキストラも含めてリハーサル準備後、私たち演出班を到着を待った。
午後10時発最終便で東京出発、近隣空港(目的地まで360KM近くあるけど)着が深夜11時半。
私たちのゼロ泊2日のロケが始まった。
ここから深夜特急(2008年廃止)に乗り換え5時間半。
一応寝台車を用意したが、もうすぐ撮影が始まるって時間に寝られるわけもなかった。出発時にも雪は降っていたが進むにつれてどんどん強くなっている様子、まあ景色が見られる日中でもなく、ただ寒暖差で曇る窓に腰かけてビールを飲んで過ごした。
5時終着駅に到着しそのまま迎えのロケバスで空港に。普通でも30分かかる距離は猛吹雪だった。
マイナス20度らしい。
1時間かかってやっと到着、片づけ時間を考えると残り30分の撮影時間。空港ロビーに駆け込んだ。スタッフも出演者も演出の到着を<キリンの首>になって待っていた。ロビーで拍手で迎えられると、バン・バン・バンとライトのスイッチが入った。
「あれっ、ちょっと息が臭いですよ」
赤い顔は確かにまだビールが残っていた。
「おはようございます。では撮影開始します」
正味45分、少しこぼれたけど7時終了。シミュレーションが完璧だったので最短で終わった。遅い朝が空港にやってきた。撤収完了7時半。始発のチェックインになんとか間に合った。
空港の地上スタッフの人が何かあったのかな? と、こちらを見ていました(早朝に150人以上いたのです、何かあったのは当然です)。空港のレストランで朝食を食べていると今日の1便が飛んで行った。
「終わったなあ…」
本来ならこれから1日が始まるわけですが、私たちは昨日から続いているゼロ泊2日。
「エキストラが良かったね」
現地コーディネーターに感謝を込めた。
「…でしょう。みんなここの役者(ローカル劇団)たちなんですよ。ローカルだけど頑張ってるんです」
彼らのスタンバイが完璧でなかったら決してできない撮影だった。
その日の夕方、会社で事務処理をしていると、友人プロデューサーが
「あれっ、昨日ロケに行かなかったっけ?」
「ああ、行ってきたよ。ゼロ泊2日ってやつさ。宿泊費はゼロ円さ」
完全なシミュレーションでしかありえない撮影だった。
早朝わずか45分の撮影時間に全力をかけた1日がやっと終わった。出来上がりは想像するまでもなくパーフェクト、見事な架空空港ロケに仕上がっていた。もちろんどこかの外国の空港でしょう。国内では撮影できませんからね。
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