夏をコスパよく涼しくするお話TOP2＜スー・スー・スー＞

 

広告業界には不思議な伝説が多々ある。

「忙しい奴に仕事を出せ！」

「第一子は女の子」

「家は早く買え」

「ちゃん付けはしないで、後輩にもさん付けしろ」

★忙しい奴は取捨選択に迷う時間はない。つまり経験とマーケティング能力が磨かれているからいい仕事をする。

★身体が疲れているとその内部も同様に疲れ、精子の中のY遺伝子も弱まっている。よって生命力のあるX遺伝子の方が最終的にトップを泳ぐ。
★生命を削るように生きる奴はちゃんと嫁さんに財産を残せ。生命保険と家があればとりあえずなんとかなる。

★いつ上下が逆転するかもしれない業界。局長やら部長やら長とつく椅子はひとつ。逆転された時、【ちゃん呼び】を【さん呼び】にするのはなかなか難しい。最初から、【さん呼び】ならお互いに問題なく仕事が出来る。

 

仲良しのクリエイティブディレクターTさん。

同じ歳だが、なかなか社内でいじめられ、妻の寝顔にしか会えない日々が続いていた。

先人の教え通り、家を買いちゃんと保険にも入り、もちろんその後生まれた第一子は女の子だった。

ある日いつものように深夜ベッドに潜った。

妻の寝息の＜スー＞

自分の寝息の＜スー＞

誰かの寝息？の＜スー＞

 

「ん？もう一度」
妻の寝息の＜スー＞

自分の寝息の＜スー＞

誰かの寝息の＜スー＞

 

「いやいや、違うだろ」
妻の寝息の＜スー＞

自分の寝息の＜スー＞
誰かの寝息の＜スー＞

 

確かに三つのスーがある。自分と妻の距離は身体ひとつ分、そして天井に向いた寝息。
三つ目の寝息は誰？

 

Tさんは冷静にそのスーの距離を測った。

妻の＜スー＞・自分の＜スー＞・誰かの＜スー＞
自分と妻の間、顔ひとつ分。それもうつ伏せ＜スー＞。

 

自分の右目の上くらい。頭を上げれば、おでこ同士でゴツンとぶつかる距離だ。

＜スー・スー・スー＞、＜スー・スー・スー＞。

＜スー・スー・スー＞、＜スー・スー・スー＞。

 

自分の鼓動が聞こえる。

「ドク・ドク・ドク」
すっかり頭は冴えてきた。

＜スー・スー・スー＞

 

目を開ける勇気はない。

＜スー・スー・スー＞

「ヤバイ、もしこの寝ている誰かが起きたら自分たちはどうなる？」
不思議にこの誰かの重みは感じない。

 

＜スー・スー・スー＞
「どうする？」

 

＜スー・スー・スー＞
「どうする？」

 

＜スー・スー・スー＞
「そうだ、こいつは寝ているんだ」

 

＜スー・スー・スー＞
「寝かせておこう」
＜スー・スー・スー＞

 

こうして朝がやってきて、何事もなかったように会社に出かけた。

「いったい誰だったのだろう？」

それ以降、この誰かはやってきていないようだ。

広告業界に長い事いるといろんな体験談を聞く。生命を削る仕事には短命が多い。

ウチも現役社長が亡くなったあと、真夜中に社長室に社長が座っている姿を何人もの仲間が見ていた。まだ仕事したいのか？死んでまで働く必要はないのに。

 

 

誰かの＜スー＞

それはTさんの元カノ？　奥さんの元カレ？　生霊ってやつ？

それは話を聞いた私たちの【暗黙の了解】で聞かなかった。

いまさら胸に手を当てる必要はないだろうから。

 

少しおとなしめなお話でした。でも涼しくなれたかな。ではまたチャオ。