CMプロデューサーの憂鬱その①
「ごめん、予算がないんだ。まけてくれないか?」
これを常套句のように使うスタッフは多い。見積をもらい、了解したらそれが請求となるのが制作予算。
後出しじゃんけんで「負けてくれ!」は通用してはいけない。
それが通用していたのがCM業界。公取委の指導により下請法で<後出しじゃんけん>は禁止になった。というのが建前で、資本金5000万以上の会社にはそれは適応外として<後出しじゃんけん>がいまだに起こっている。
何故こんなことが起こるのか? 後出しをしているのは発注側の広告主。要は広告を知らない人が担当している。会社の広告部門が以前とは変わり、広告のプロがいないこと。A案を進めていたが途中で会社の方針が変わったので、B案も頼む。とか、2本抱き合わせの制作が3本になったから、予算はそのままで3本つくってくれとか。まあそれを受けてしまう広告会社にも責任があるが、高額なメディア費用(制作予算の10倍は普通)に対して制作費は軽視されがちなのだ。
CMを家を建てることに変換すると、3LDKを建てようとしていたら、おばあちゃんの離れもついでに作ってほしいとか、ガレージも作ってくれとか、CM自体が動き出して(設計図ができてから)から社内の要望を止められなくなるようなものだ。
ある日、1クール予算(3か月オンエア)で進めていた仕事が4クール(1年)になった。
出演者は外国人モデル。出演者は俳優やタレントなら別建てだが、モデルクラスは制作費の中で消化する。通常モデルは日本人で1クール15万から20万。外国人は1,5倍から2倍が相場。その4倍となると6倍から8倍の出演料となる。30万円が240万となるわけで、これはもう破綻しかない。それは子役でも同じで、東京では主に横田基地(空軍)ではなく横須賀基地(海軍)が多かった。横田は転勤が多く年齢も若い。横須賀は幅広い年代がいて、日本にいる時間も拘束時間もアルバイトには適したようだった。
外国人登録のほとんどが在日米軍のアルバイトの時代(1990年代)、それを束ねていたのが外国人専門のキャスティング会社。今回は子役二人と先生役が必要だった。「3人雇ったら500万を超える。それはあり得ない話だ、モデル相手に500万の出費は通用しない」
以前普天間基地でオーディションを経験していたが、沖縄のコーディネーターに相談すると案外小学生は少ないと聞いた。特に白人希望だともっと人数が限定され選ぶどころではなくなる。往復交通費も考えると今回の沖縄は難しそうだ。4クールとなった時点で、東京近郊でのオーディションはない。と確信していた。
つてを頼り探すと三沢基地に知り合いがいると連絡があり、さっそくクリエイティブディレクターと三沢に飛んだ。交渉はなんと小学校の校長だった。ミセス校長はにこやかに応対してくれ、さっそく交渉が始まった。
「ランチを食べよう」
校長はベースの食堂に案内してくれ、ここで私たち二人は目を見張った。三沢は空軍基地。それもロシア方面の前線基地。緊急事態を想定してみんな武器をぶら下げていた。食堂の椅子に座る女性隊員も小銃を腰につけたままランチを食べている。「ああ、驚かしてごめんなさい。ここではこれが普通なの」ミセス校長は苦笑いした。
学校に戻り、学校への寄付金と出演料を提示すると、「いいわ。わかった。じゃあ教室に行きましょう。何年生がいいの?」たぶん10才、3年生くらいというと、校長はいきなり3年生の教室のドアを開け先生を呼び出した。事情説明すると、先生は「さあ、どうぞ」と教室に招き入れ生徒に事情を伝え、こちらを振り向いて言った。
「さあ、好きな子を連れてって頂戴。東京に撮影に行けるんだから、選ばれた子は光栄よ」
これがアメリカン。改めて関心したのは言うまでもない。その担任と二人の子を選び、1週間後に無事撮影は終わった。掛かった費用は彼らの交通費と宿泊代を入れても東京の外国人モデルひとり分も掛からなかった。
プロのルールは1クール。
年間契約ではあまりにも高額になる。ここ三沢では学校責任者のミセスとCM責任者のふたりの合意で決定する。おかげでかなり高品質でいい作品が出来上がったのは言うまでもない。映画の国アメリカはCMであっても理解は速い。問題は合意するポイントがきっちりと絞られていること。寄付金はやはり重要なポイントだった。ネゴシエーションはプロデューサーの仕事だ。
その後、これとはまったく逆のことに出会った。外国にある権利の交渉。
今度はアニメキャラのアプルーバル(使用許諾)。
それも世界的に有名なキャラクター(動物)、秒単価100万円が相場と聞かされていた。30秒なら3,000万。それが許諾料。プラス書き起こしとフィルムへの転写、総額はいったいいくらになるのか? 持っていける(交渉できる予算)のは、その半額がいいとこだった。依頼した広告主は条件を変えるつもりはないという。
交渉までの2週間、頭を抱えてアニメを見た。制作(プロダクションマネージャー)に国内にあるすべての動画を収集させ、悩みに悩んだ。渡米に持って行ったのは銀座の老舗うどん屋の木箱2箱(ひと箱5,000円の高級品)。交渉はキャラクターの持ち主ではなく、やり手の女性社長だった。ミセス社長は「ウェルカム」と迎えてくれたが、キャラクターの持ち主の老会長は「ああ、あいつは曲者だから気をつけろよ」とウィンクしてくれた。
「率直に言いますが、このアニメは日本でも大変人気です。ですからぜひアプルーバルをお願いしたい。ただ、予算は相場の半分しかない。それを実現するために私たちはアニメをすべて見たうえで、駒落ち(1秒間に描く枚数を減らすこと)でいい。15秒分描いてくれたら30秒に伸ばすことが可能なプランにしました。この依頼を受けてください」
ミセス社長は即答はしなかった。「明日の午後また来て頂戴、そこで返事するわ」
老会長は「どうだった? 返事はしなかっただろう」と心配してくれた。交渉で即答のないのはいい返事ではない。日本ではスタッフが電話を待っていた。
翌日、午後とは言われたが昼に着いてしまった。老会長は「おい、ランチでも食おう」と自分で運転する車で街のステーキハウスに連れていき、いきなり「ドライマティーニ」と酒を頼み、「昨日、ミセスがどうしようか?っていうから、いいやつそうじゃないか。うどんもくれたしな…と言っておいたんだ」とマティーニをぐいっを飲みながら「お前も飲めよ」とまたウィンクした。
80才近い老会長は日本が大好きだと言ってくれた。
「あいつ(ミセス社長)は日本人が嫌いなんだ。金で頬を叩けば仕事をすると思っている日本人はうんざりだって言ってるんだよ」
う~ん、厳しい返事が来る予感。とびきりのステーキランチだったはずが、味がしなかった。
会長の運転(マティーニ2杯飲んでいます)で会社に戻ると、社長は不在だった。「あれえ、いないぞ。おかしいなあ…」会長が社長のデスクの手紙を指さした。宛名は私の名前だ。
「開けてみろよ!」促されて開けるとタイプ打ちの文字(英語なので読めない)。通訳に読んでもらった。
「Mr.Hプロデューサー。あなたは日本人だから断ろうと思っていました。ただあなたは、正直に事情を話し、コマ落ちの計算もして、私たちと対等に仕事をしたいと言ってきた。それはビジネスとしてパートナーに適していると感じました」
「何よりもあなたたちのチームはこのキャラクターを愛しています。会長と話し、あなたの提示した予算から1,000ドルを引き、それを合意額として請求します。1,000ドルはあなたたちの往復のビジネスクラス代に充ててください。1,000ドルで演出とあなたはビジネスクラスに乗るべきです。プロとして仕事をしにわざわざ太平洋を渡ってきたのですから」
会長は手紙を覗き込みながら「お前、気に入られたのか! 珍しいなあ」と笑ってくれた。
1か月後出来上がったフィルムを受け取りに行くと、老会長は「おい、マティーニ飲みに行こう」とまたランチを誘ってくれた。いただいた1,000ドルでビジネスクラスを利用した。
では、もし許諾されなかったら…? の回答は、この仕事もクライアントも失います。もちろん掛かった経費(いままでの全費用)も出ません。受注したものが作れない=FIRE(解雇)です。
事前交渉(電話交渉)とかの方法はないの?→ないわけじゃありません。
ただ電話ではまず断られる。交渉はFACE TO FACEが基本。電話で一度断った人とは会ってくれません。だからぶっつけ本番で行くしかない。目を見て話せない人は交渉のテーブルにはつけません。
残念なことはひとつ。このCMはオンエアされなかった。理由はその広告主の不祥事事件。すべてのCMは自粛された。
努力が報われないことはいつも悲しい。予算をきちんと守る仕事、それがプロデューサー。そして高品質を保証するために何を守るか? 次回の受注をこちら側に誘導する。オンエアされなければそれもできない。
「できないを、できるに」それが私のコンセプト。NO!と言わないことでクリエイティブディレクターに寄り添ってきた。形を変えて襲い掛かる危機に、次回はお金でもなんともならないことをお送りします。
クリスティーズ★フィフィールド・フェドラ【ラビットファー】59CM
商品紹介
クリスティーズ★ウィリアム・ファーフェルト・レーシング・トリルビー59CM
商品紹介
KANGOL★カンゴール・ライトフェルト・プレーヤーLarge+HATBOX
商品紹介
クリスティーズ★サリス・エプソム・ダブルフーデッド・ファーフェルト59CM RED
通常価格
52,300
円 (税込)※商品価格以外に別途送料がかかります。
商品紹介
関連情報
メンズハット 通販|HEY3HATTER
メンズハットの通販ショップ【Hey3Hatter】では、ステットソンをメインにドブズやクリスティーズのいい帽子だけをセレクトして直輸入販売をしております。ストローハット・パナマハット・ビーバーハットをはじめ、ウィペット・ストラトライナーなど、ステットソンハット(DOBBS/CHRISTYS')の永久保存版を取り揃えておりますので、ぜひ自分にぴったりの一つを見つけてください。
屋号 | HEY3HATTER |
---|---|
住所 |
〒340-0011 埼玉県草加市栄町3-4-24-609 |
電話番号 | 090-4096-1911 |
営業時間 |
10:00~19:00 定休日:不定休 |
代表者名 | 平石 光男 (ヒライシ ミツオ) |
info@hey3hatter.net |