史上最強のロケスタッフ
|史上最強のロケスタッフ
ロケはロケコーディネーターを中心とした現地スタッフ。撮影隊のカメラスタッフ、制作部、タレント回りのメイクスタッフ、美術スタッフで構成され、最大50名最小数名でできています。ここにクライアントの宣伝部や広告会社のクリエイティブスタッフが参加し、何にもない僻地や岸壁で大きな挑戦をする。クルマのロケならカースタントチームが追加され空撮の用意。今回のメインは演じるキャストたち。
小学校の卒業アルバムとかにある学校の名前の人文字。だいたい500人から1,000人でつくられている。文字の枠をライン引きで描き、学年別にその中に入ってヘリ到着を待つ。静止画として、思い出に残るいい写真です。
出典:リオデジャネイロ2016オリンピック・パラリンピック競技大会の閉会式(東京2020)
これをあるCMでやりました。まずは人集め。ボーイスカウト・ガールスカウト、日本の代表的なスポーツやYMCAなど休日は全滅です。休日に毎週イベントがあるからです。たまたま見つけた団体(固有名詞は避けます)はスポーツ団体Xだった。話半分で「ちょっと今からじゃ無理だよ」と最初から相談の腰が引けていました。
スポーツ団体Xの元締めの会長は馬喰町の洋服問屋さんでした。
「会長、ここでウェアを買います。全員分。プラス各団体(1団体10名から20名)に寄付金、そして送迎バスと保護者と本人用のランチ、計1,500食分、晩御飯には返しますから…」
700名の人文字、文字数5文字の簡単な図案だったが、合成ではなく一発撮り。そして地面には何も描かれてなく、だあ~っと走りこんで文字を作る。そしてピタッと止まる。
こんなことをプロダクションマネージャー(制作進行)1年生のデビュー戦にやらせちゃうところが大胆な会社なんですが、先輩たち10名に協力を委ねアクションのシミュレーションを重ねました。図案を紙面上で計算するとイントレ12段(工事用の足場みたいなもの)。
12段は地上22M。ビルで言うと8階くらい。最上階は風に揺れている。固定カメラは<待ちポジション>。
※待ちポジションとは、カメラのフレームの中に被写体が入ってくるのを待つという意味。カメラが補正して位置修正しないので、動きの失敗はそのままNGになるのです。
被写体を追いかけるBカメラやほかにも複数台ありますが、本命カメラは待ちポジション。とにかく子供たちの演技次第。関東全域から召集された大型バスは35台。引率者は各団体地域の団長。その少年団Xは、ぞろぞろとバスを降り、カメラ前に集合します。ワイワイガヤガヤ。
「みなさん、こんにちは。〇〇公園へようこそ!」
トラメガで12段から私のあいさつ。簡単な説明、そしてテスト本番。文字に2名ずつの制作部の先輩10人が待ち構えて整列させます。
走りこんでくる距離はおよそ100M。それは森の中にある広場。
画面の端っこに見える森を突き破ってくるところから、静止整列するまで約20秒。これを2時間の中でやり遂げなければなりません。往復のバス移動、無事に子供たちを送り返し、各自の晩御飯に間に合わせるためです。
公園に響く子供たちの声「わー…!」
テスト本番は何度も失敗を続けます。700人が一斉に走りこむとこれは大混乱になります。
転ぶもの、ニタニタと笑いながら肩を組んで走るもの、小学1年生から6年生までの少年団X、当然1年生は足が遅い。まったく揃いません。もちろん文字にもならない。予期しない最悪の構図。トライするたびに子供たちのアクションは悪くなっていきました。
文字担当の制作スタッフは各文字の子供たちの走る順番や位置を修正し、足の遅い子に合わせた配置に入れ替えます。それでも10トライやっても一度も揃いません。時間は日の傾き始める午後3時。
「おい、制作。靴下を脱がせろ」演出が突然私に要求しました。
「服はいいが靴下の色や長さがバラバラだ。画にならない」
この時11月下旬。子供たちは白半袖Tシャツに半ズボン。寒さに震える時期です。トラメガで声を掛けました。
「皆さん、よく頑張っています。ここでお知らせがあります。靴下を脱いでポケットにしまいましょう。靴下の色がバラバラで画になりません。お願いします!」
すると、口々にブーイング。「やだあ!」「寒い!」「もう帰りたい…」
人文字が揺れ動き、言うことを聞きそうにもありません。危ない空気になってきました。
「だって、寒いじゃん。そっちはコートとか着ているのに卑怯だよ…」そんな声も聞こえます。
「そうだ、卑怯だ!」子供たちの反撃です。どんどんその声が高まっていきました。
収まりそうもなく、予定にはない勝負に出ました。
「みなさん。わかりました。撮影スタッフも全員コートも靴下も脱ぎま~す」
「みなさんと一緒です。そしてこの1回で決めましょう。私たちはこの1回のために来ています」
しぶしぶとスタッフが上着を脱ぎシャツ姿に、靴下をポケットにしまいました。
子供たちからわれんばかりの拍手です。
「さあ、行きましょう。一発勝負。これで決めてください!」
レディ、アクション。演出の掛け声でスタートを切る子供たち。目が生き生きとしているのが22Mの高さからもわかりました。人文字はピタッと決まり、「OK! フィニッシュ」演出が大声で叫びました。
出典:大宰府政庁跡(毎日新聞)
プロの演技を決めた子供たちのバスを見送るとすでにあたりは暗く、イントレ撤収は不可能になり、翌日撤収の始末書でした。
このスポーツ少年団Xのおかげでフィルムは無事素晴らしいオンエアになり、私のデビュー戦はなんとか終了。最高のロケスタッフ、それは700人のキャストでした。あの少年団でなければできなかった一発勝負、彼らのおかげで震えるような寒さはどこかに消えていました。
2年後、今度は500人の行進がありました。ある製薬会社の企画で、全員がスーツのズボンに裸足。ある一定の動き(演技)をしたあとに「いち・にの・さん」でピタッと静止する。500人の裸足が止まることが引き画ではものすごく締まって見えるもの。人物の顔は映さない企画でした。
出典:赤の広場行進(時事通信)
行進はテーマソングをつくり、その歌に合わせた振り付け。この団体行動の指導者を探しました。行進といえばいまの防衛省。つてを頼りに防衛省(当時は防衛庁)広報を訪ねると、ものすごく乗り気で協力を受諾、振り付けアイディアと当日の数名の協力を得ることに成功しました。
500人オーディションはちょっと無理。10名単位でアルバイト・エキストラを頼みました。基本スポーツをやっていた人、その友人知人のグループで50チーム。このチームというのはすごく大切なこと。行動を共にすることで連絡網やロケ地への行き来を自主的に管理してもらうこと。そしてズボンの裾上げがあるので、全員のウェストと股下測定を同時に依頼、500着のスーツパンツは量販店発注、裾上げスタイリストは前日から10名確保。
上半身は映さず下半身のみの行進。30秒のテーマソングに50団体がアスファルトを行進します。海岸線(ロケ地は非公開)の人の来ない直線道路。数メートル置きにスピーカを並べ音楽を流します。
防衛省スタッフは数十人ごとのブロックで旗振り。音は出せないので歩くスピードに合わせて大きな旗を振り、行進を促します。スピーカの音に合わせてジェスチャーを交えながら行進のステップを演技します。
「右・左・右・左…右・左・ターン…右・左・ターン…」
このターンはかかとを揃えるターンではなく、左足を右足が追い越して90度身体の向きを変えるもの。
バスケットボールのフェイントのような動き。一人では簡単なことが大勢だとバラバラになる。幅が揃わないからです。
裸足では足をきちんと上げないと画にならない。
膝を90度上げてアスファルトを踏みしめるように歩くと足の裏が悲鳴を上げます。
痛そうな歩き方は歩行が揃わない。まったくだめ。休憩を入れてもお弁当を食べさせても全く演技になりません。
リーダー50名を呼んで、
「仲間をなだめて、うまくやってくれないか?」とお願いします。
「痛いんですよね、足。…それに顔映ってないし」彼らは顔が映ってないことを不満に思っている。
そのモチベーションは下がります。
「なんだよ、それ!」思ってもみない現象でした。
何度やってもだめ。揃うどころかバラバラさが加速します。
膝は上がらずグダグダの状態でダラダラと時間だけが過ぎていく。
何にもない場所で500人行進を続けていくとどうなるか?
それはへたり込み。誰かが座ると次々とその列は地面に腰を下ろしてしまいます。
モチベーションはダダ下がり、無言の抗議の目がこちら(カメラ側)に刺さります。
出典:マザー牧場
新品のパンツで道路に腰を下ろす…やめてほしいが止めようがない。
撮影スタッフも「どうするんだ!」という顔でこちらを見ます。
トラメガを持ち、キャストに向かい声を掛けました。
「みんな、よく聞いてくれ。君たちの辛いのはよくわかる!」
「ただこれを成し遂げるために防衛庁広報もボランティア協力してくれている。君たちのズボンは10人にスタイリストが寝ずにプレスをかけている。カメラもステディカムで最高のスタッフだ」
500人のエキストラはざわざわした。撮影スタッフも異様な雰囲気、危険な空気が流れた。
構わず続けた。
「なのになんだ!だらしない。君たちはギャラをもらったプロじゃないか!」
「痛いからとか難しいとか不満しかない。プロなら決めてさっさと帰ろう」
「映っているとかいないとか、そんなことじゃない。自分がプロとして一発で決めてやろうと思うだけだ。さあやろう」
カメラスタート・レディ・アクション…素晴らしい行進が一発で決まった。
続けてテイク2、これもいい。
「OK! サンキュー」
演出が笑顔で叫んだ。
500人の男たちの「ウォー!」という叫びが誰もいない道路に鳴り響いた。
そして次の瞬間、空間いっぱいに張り詰めた糸はプツンと切れ、息を止めていた人がおなか一杯空気を吸うように緩んだ空気に変わっていた。
出典:日本体育大学日体フェスティバル(朝日新聞)
マスゲームで一番大切なこと。モチベーション。彼らが本気になるとその映像は美しい。
史上最強のロケスタッフは出演者本人。モチベーションが一体化した瞬間、キャスト全員のアドレナリンが全開となり、興奮は沸騰しフィルムは確実にその張り詰めた空気感を映し出します。
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