｜99.3％天気

相当数のロケをこなしてきた私は当然＜晴れ男＞である。300は数えるロケの2回だけ雨にやられた。その2回のうち1回も雨の見えない（小雨はフィルムに映らない）ロケだったので濡れている服以外は問題なかった。

 

＜最強のレインマン＞俳優O田さん。10年ぶりのクルマのリニューアル。万全の準備でロケ場所は確保、海を渡る橋はその両側をエメラルドグリーンの景色が囲み、空はスカイブルー。なかなか日本では撮れない画（フレーミング）だった。

 

 

主演のO田さんはすでに東京で壊れていた。腰をやっているらしい（病名は書きません）ので病室での打ち合わせとなりますとの連絡。訪問する（裏口から入れという指示）と、このことが知られたらマスコミに書かれます。バレたらあなたのせいですよ。と半分脅迫された。O田さんは何も言わずマネージャー（個人事務所）がすべて取り仕切っていた。

 

ロケ地は完璧な準備でO田さんを迎えるだけ、三泊四日で楽勝のロケだった。

O田さんが乗った飛行機が着陸するや否や雨。以降ずっと雨。いままで一週間まったく雨のない沖縄・M島はどうしようもない雨で煙った。

 

「予報とかで予測できたんじゃないか？」と思われるでしょうが、タレント固定ロケの場合は天気に関係なく強行しかない。予備日が組めない俳優さんたちは次の機会が3か月後だったりするから。

 

しかも故障している身体。病院に入院してのロケ。この手配もこちら持ち（島にひとつしかない総合病院は、満床だった病室の軽症者を一時退院させ、６人部屋を一人部屋にした）。

 

何故かパパラッチがロケ地にいる。こちらは完全秘密を守っているのに誰かがリーク、何もないロケ地にレンタカーが数台。O田さんはロケバスに隠れ、ひたすら待機。するとマネージャーサイドから「早く撮影しろ！」と要求される。

 

 

一日経ち二日経ちスタッフも悪天候に諦めの気配。マネージャーサイドだけが怒りまくっている。

「パパラッチにバレたらお前のせいだよ。早く撮影して東京に返せよ」土砂降りの雨の中、決断できる状態ではなかった。

 

三日目の朝、「もう帰るから早く撮影しろ！　雨はお前のせいだ。やれと言ったらやれ！」広告会社もO田さんをこれ以上怒らせてはならないと撮影強行の指示が来た。風はなく雨だけが降り続いている。ただこの大粒の雨はどうしようもない。

 

やり取りを見ていたカメラマンは言った。「この雨、映るよ！」

「ああ、わかってる。やろう！」パパラッチも当然動き出す。彼らはシャッターチャンスさえ逃さなければ写真を売ることができるから。

 

パパラッチ用の大きなスクリーンで囲みながらO田さんを劇用車後部座席に移し、カムフラージュ用スタッフが運転しながら撮影ポイントに。再びスクリーンをパパラッチに向け、撮影スタート。いくつかのシーンを最小のテイク数でこなし、なんとか搭乗ギリギリの時間まで撮影。三泊目はさせずに二泊で返した。

 

 

帰りの飛行機でもひと騒動、病院のように寝かせて運べという。具体的にはシート６席を倒しその上にストレッチャーを配置してカーテンで囲む仕組み。6人分を払ってストレッチャーは固定された。一般客の搭乗1時間前セットする。腰痛のO田さんは自分で上がれないから、私が80KG抱っこして載せた。

 

「ではCAの皆さん、よろしくお願いします」と言うが早いか、カーテン内から煙が上る。「お客様、困ります！」CAが悲鳴をあげた。そう、O田さん1日3箱のヘビースモーカー。「O田さん静かに寝てください！」そう言うと、「は〜い」といたずら小僧のような返事が返ってきた。

 

なんと騒がしかったロケだろう。O田さんを乗せた飛行機を見送る時、飛行機が消えた先に見えたもの、それは青空だった。あと一日粘れば晴れた撮影が出来た？　いや出来なかったろう。それくらい＜レインマン＞は強烈だった。

 

実はそのあとが大変だった。濁った緑色の海をマリンブルーに。雲を青く染めて青い空に。＜雲を青く染める作業＞はいったん拡大して黒い粒子ひとつひとつを消していく作業。そして濡れたクルマを濡れていないように。これはほぼ全編手書きCM。ペイントした枚数は30秒×30枚（秒30フレーム）。900枚の画面を一週間でペイントしたエディターが優秀だった。

 

ゴジラの世界とは言わないが、あきらかに不自然なCMが出来上がった。この結果は散々で当然この仕事は失った。＜最強のレインマン＞俳優O田さん。私の99,3%（2/300）よりも強い雨男。ただし、私のオンエア率は100%、この雨男のロケもTVには届けている。

 

 

※なんとなくお分かりかと思いますが、火のない所に煙は立たない。パパラッチを呼んでいるのは事務所サイド。あの人達の頭の中には、様々な駆け引きがうごめいている。情報の捏造も仕事のうちのようです。→　後日写真週刊誌には掲載されていましたが、オンエア後ということでお咎めはなし。