｜著作権専門弁護士（エンターテインメント・ロイヤー）

 

アメリカ・ニューヨーク・マンハッタンでは石を投げれば弁護士に当たるというジョークがあるくらい弁護士は生活に密着している。弁護士の仕事は書類作成。法的にAさんとBさんの権利や意思を書面で合意させること。

 

合意はお金がほとんど。定型文でいい不動産や商品売買はいらないとして、企業買収や映像著作権はそれぞれの立場で細かく規定するため、多くの事例を扱う専門の弁護士を起用することが常識。映画では＜エンターテインメント・ロイヤー＞です。

 

 

私たち日本の独立系映画ファンドであってもそれは問題ない。むしろ大きな映画会社では意思決定が遅いため、売買がなかなか進まない交渉よりも、すぐにビジネスにしたい私たちマイナー会社は喜ばれました。

 

脚本を持たなければ脚本を多く扱うロイヤーを見つけます。この脚本ロイヤーから適当な脚本を買う。次に映画製作の資金を出す投資家を探すために投資家専門のロイヤーを探す。この製作費さえ揃えばスタッフは自動的にセッティング可能。

 

映画スタッフは受け身の立場なので、受注できる案件であればアジアであろうとアフリカであろうとビジネスを受け付けます。ただし、もちろんやりたい案件、脚本がいいことは前提です。

 

 

製作（プロダクション）にとってエンターテインメント・ロイヤーの役割は非常に大切。

そして有能なロイヤーさえいれば独立系であってもメジャースタジオであっても関係なく仕事は成立します。

 

機関投資家は株や土地だけでなく、利回りのいい映画にも投資します。その投資家は意外にも銀行であったりします。銀行は預かる資金を運用するためあらゆることを研究しています。いまはデジタル映画だなと感じたら映画にも10億円20億円程度は平気で投資する。

 

製作費平均68億円（60ミリオンドル）のハリウッド映画の資金調達は、まずこの投資家探し。私たちが入手したカナダの脚本はTVキャラクターでした。デジタルアニメーション時代に入り、過去の２Dキャラクターはデジタルアニメ化しやすい。

 

しかもキャラクター自体に別な魅力（主人公がミュージシャン）があり、音楽著作も期待できるし、マーチャンダイジング（玩具販売）も可能。通常の3倍から5倍の回収が、7倍から10倍と期待できる案件。そう、脚本専門のロイヤーがとても優秀であったのです。

 

ただ、映画はものすごく緻密に契約書をつくる必要があり、その契約書づくりに時間が掛かる。平均一か月でできるものが三か月も掛かるものでした。何故なら映画は製作前から回収の期間に至るまで関わる人ひとりひとりの権利を全部書面化する必要がある。

 

たとえばミッション・インポッシブルのトム・クルーズは、出演料は安いが製作に自社（トムの会社:Cruise/Wagner Productions）を入れることが条件。そして配給時にトップオフ数％（映画館収入の数％）、撮影時は専用トレーラーハウス1台、専用スタイリスト・ヘアメイク、移動は自分のジェット、滞在ホテルはスイート以上など。すべて計上したものを数値化する必要がある。

※実際のトムはもっと詳細。ページ数で50ページは下らない。

 

 

監督に起用したい人がいま製作中であったら、いつからクランクイン可能か。2年後3年後？　10年先と言われることも普通にある。ここをカネ（製作費）とコネ（有能なロイヤー）とネタ（脚本）で落としていく作業。

 

そして何よりも厳しい条件は、すべてが期間限定であること。1年52週間として、26週間以内に決まらなければすべて白紙。というような条件付きのロイヤーとの契約。そして現金決済であること。事前半金、終了時半金。ただ強烈なのは白紙は本当に真っ白。そんな話はなかった！　になります。

 

交渉はすべてエクスクルージブ（独占・排他的契約）。交渉相手はいつもひとり。日本のように二股三股と同時に当たることはない。ですから進んでいけば問題ないが、途中で交渉がこじれると破綻の波が襲ってくる。

 

「80％はOKだが残り20％は難しい」という交渉の場合、時間切れはゼロ％（いままでの経費も時間もすべて無駄）になるので、相手の条件を飲むか別な条件を出すか迫られる。

 

製作プロデューサー（エグゼクティブプロデューサー）は製作費を預かり、ロイヤーの言う条件と正面から闘うことを余儀なくされることであり、赤字決算だから降ろされることでもなく、赤字ならさらに製作費を調達する。

 

 

ただ、回収までの時間をいかに持たせるかが問われる職種。

製作プロデューサーにTVCM出身者が多いのもこの立ち位置を知っている事が理由でもあります。

 

残念ながら私たちは時間切れを余儀なくされ、複数件の失敗から撤退しましたが、エンターテインメント・ロイヤーが実質存在しない日本では、大型案件がつくられない理由はこういう事（仕組みの違い）が原因でもあります。

 

ちなみのスポーツマネジメントの世界では、傘のマークで有名なアーノルド・パーマー。

通称＜アーニー＞は若い頃、その実力からいろんな大会からオファーがあり、いちいち電話に出て交渉するのが面倒なので、友人の弁護士マーク・マコーマックに「お前にマネジメントを任せるからやってくれ」と言ったのが始まりで、1960年世界初のスポーツマネジメント会社＜IMG＞が設立された。

 

やがて＜IMG＞は有能なプレーヤーと独占契約する会社となり、フロリダにそのキャンプ地もつくり天才アスリートを育成する会社になった。タイガーウッズや日本の松山英樹・錦織圭・大坂なおみ・浅田真央らが契約する会社になった。

エンターテインメント・ロイヤーは契約書作成が仕事。そして契約者の最大限の利益を生む仕事。原石（発注者）を磨いて（交渉者）ダイヤに変える（大きな回収）するドリームメーカー。

 

 

組織（業界大手）に従うしかない日本で独立系（インディペンデント）が立ち上がるには、有能なエンターテインメント・ロイヤーがいればいいんです。たった3人の責任者、発注者・投資家・弁護士。話がわかりやすいでしょ。日本にもあることはあるのですが、このウェブサイトじゃ誰も来ないですね、httpsでもないし。