｜オスカー投票とは

世界最高峰アカデミー賞は毎年３月初頭（年により２月末）授賞式がロスアンジェルスのドルビー・シアター（2030年までの契約）で開催される。

映画技術科学アカデミー会員（2019年2月現在7,902人）による選考は基本自分の所属する部門１つ（無記名）、そして作品賞（TOP10を上から順に選考）に投票。１月のノミネートと３月のオスカー授賞式の２回に分けて主要17部門、合計24部門が発表される。その投票は郵送（E-mailも含む）、会議（技術などは各部会で決定）で決めるものではない。

アメリカ最大級のコンサルティング会社プライス・ウォーターハウス・クーパース（PWC）が発表当日（情報は絶対に漏れない）まで管理し、決定した封筒を受賞会場に運ぶ仕組みだ。

アカデミー賞は名誉のみ。賞金や副賞はない。オスカー像ひとつだけ。

会場に入れるのは招待客（候補者やメンバー）のみ。全世界に公開することでイベントとしての価値を高めている。ここに各ブランド会社（ジュエリー・服飾・コスメティクスなど）は参加者に広告塔として自社製品を身に付けてもらうわけだ。

特例として主演男優女優、助演男優女優、監督らは＜ギフトバッグ＞と呼ばれる総額1,000万円近くの旅行券（超有名リゾート無料宿泊）やスポンサードされた商品類を受け取る。

quote：AFP

2016年以降投票権は10年とされるが貢献度合いにより延長される。事実上永久資格だ。

細かく言えば、アカデミー会員はロスアンジェルスのハリウッドを中心とした労働組合で構成された映画産業の代表イベントであり、ロスアンジェルスで公開された映画（7日間以上・最短40分）が審査対象。出品者の世界各国の配給会社は代表作を送り込む。

有名なところでは＜千と千尋の神隠し＞を出品することになったスタジオジブリ。

当のプロデューサーSUZUKIはアメリカ配給のウォルト・ディズニー社会長（当時マイケル・アイズナー）に接見、なんとかディズニー社でのアメリカ配給からの出品を依頼した。

（コネクションとしてはジブリのMIYAZAKIとピクサーのLASSETERが親しかったことを起点にアイズナーに紹介してもらった）

その年のデジタルアニメーションは別な作品で決めていたので、アイズナー会長は最初断ったらしい。あまりにも粘るプロデューサーに、「ではスニークプレビュー（題名を伏せたアンケート形式の試写会）で結果を見よう」とデジタルアニメの視聴者の多いマサチューセッツあたり（IQの高い学生が多い）の複数の映画館で公開を始めた。

するとどうだ。主役の千尋ではなく＜カオナシ/NO-FACE＞が異常に人気だったという。八百万の神が休憩にやってくるお風呂屋さんに迷い込んだ人間の子供のストーリーは、＜妖怪カオナシ＞の存在でヤングジェネレーションのハートを掴むことになる。

＜SPIRITED AWAY>はこうしてロスアンジェルス公開となり、ディズニー社の後押しで出来立ての部門長編アニメーションを受賞することになった。

アイズナーにはこの時悔しい思いがあった。信頼していた部下のジェフリー・カッツェンバーグは＜ロジャー・ラビット＞以降次々とヒット作をつくり、ピクサーと提携しミラマックスも買収していたが、ライバル社ドリームワークス・アニメーションから2001年オスカー受賞の＜シュレック＞を生み出しデジタルアニメーションのリーダーにのし上がっていたからだ。

2002年＜SPIRITED AWAY＞がオスカーを受賞、翌2003年くしくもピクサーの＜FINDNG NEMO＞が受賞。DISNEY VS DREAMWORKS ANIMATONは火花を散らすことになる。

勝つことが前提のハリウッドでは自社作品であっても負けるものは出さない。

ちなみにアイズナーは2005年業績不振のより不信任され、現ボブ・アイガーに交代している。

※DISNEY＝正統派キャラクター、DREAMWORKS＝悪役キャラクター　この構図は既に終わっている。理由はMARVELをDISNEYが買収配給成功したこと。キャラクターネットワークのあるMARVELは単発作品のマーケティングでは勝負にならない。

日本で投票権を持つのは、俳優ではKEN WATANABE・TATSUYA NAKADAI、監督ではTAKESHI KITANO、KIYOSHI KUROSAWA、NAOMI KAWASE、HIRIKAZU KOREEDA、美術監督のYOHEI TANEDA、アニメーション監督のKOJI YAMAMURA、衣装デザインのEMI WADA、作曲家のSHIGERU UMEBAYASHIなどがいる。

オスカーシーズンはたった2週間。年末プレスキットを配布し、1月2週目のノミネート10作品に名を連ねるかどうか。そして2月3週目の本選1本選考。これを3月頭の授賞式発表までPWCが秘密金庫に管理する。

各配給会社（製作会社/俳優の会社/この作品に関わる全ての会社）は11月から3月までハリウッドの高級店を貸し切って自社映画を会員にアピールする。投票自体は自分の所属グループと作品賞だけ。投票権を持つ人に猛プッシュ、候補者が主催のパーティパーティの日々が続くわけだ。狙いはオスカーを持つキーマンを呼ぶこと。キーマンを呼べば仲間の俳優女優監督らが集まりやすい。

1票が10票100票に結びつくキーマンを呼び出せる人は誰か？　これを主催者は熟慮する。そうこれは政治活動、強い政治家は存在する。組合（ユニオン）を中心としたハリウッドでは、ユニオンTOPを巻き込むことは必須、ユニオンはいつも問題を抱えている。性的差別や労働争議、ひっきりなしに起こっている訴訟。ユニオンに協力する辣腕弁護士（エンターテインメントロイヤー）も巻き込み、オスカー獲得大作戦が練られていくわけだ。

アフターパーティ（授賞式）以降は、受賞者の周辺がカンヌ映画祭開催の5月までサンクスパーティを催すことになる。既に劇場公開済みの映画ではなく、オスカー受賞者を次の作品に起用してもらうためのパフォーマンスだ。

2019年劇場公開目的ではないNETFLIX配信（一部劇場公開）の＜ROMA＞が監督賞・外国語映画賞受賞し話題となった。最近では差別を意味するLGBT（レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー）や黒人や女性蔑視やハンディキャッパーへの視点などさまざまな要素がアカデミー賞基準に取り上げられ、事前発表の司会者が下りる事件（スキャンダルを暴かれる）で司会者不在も発生している。

プレゼンターは前年受賞者が基本、男性は女性へ、女性は男性を紹介する。監督賞などはそのまま前年監督がプレゼンターとなるが、技術的な賞（脚色・アニメなど）はセレブ俳優や歌手が事前指名され登壇する。

放送がABCが受け持ち、日本ではWOWOWが放映。スーパーボウル事件以降5秒遅れで世界約3,400万人に配信（NFL,NBAに次ぐ）されている。

流行に敏感なアメリカの事情が反映されやすいアカデミー賞（会員の選考）。

ボヘミアン・ラプソディー対アリーの対決から1年、ロケットマンがどこまで人気を博すかも楽しみです。

quote:vogue japan

7/2アカデミー賞関連NEWS：大友克洋さん・押井守さんが（レディガガも同時に）推薦でアカデミー賞メンバーに招待された。アジアにメンバーを増やす理由、それももちろん未来のマーケティング。アカデミー賞の権威を全世界に広げていくために必要な1票。今回の推薦はデジタルアニメーション分野が広がっていくことを期待するということだ。